この腕の中に、何とも無造作にもぐり込んで来た撓やかな肢体。きれいな金色に染められた髪に触れても、怒ったり払いのけたりしないで、そのままでいてくれる。………でもね。たとえ此処まで親しくなった自分が相手であっても、気まぐれに振り回しては容赦なく嘲笑したりする。相変わらずなのだ、この悪魔さんは。
――― これはまだ内緒なんだけれど。
彼を知れば知るほどに、昔飼ってた猫のクロを思い出す。
印象的な容姿や所作が、誰の目をも奪うだろう飛び抜けた存在感を持つ、それはそれは愛しいこの人は。相も変わらず"アメフト"だけが生き甲斐で。真摯で一途な心意気をあまりに偏らせている反動からか、その他へは にべもなくつれないばかり。いきなり姿を消したり、逢いたいと請うても3度に1度しか応じてくれない素っ気なさも変わらないまま。そのくせ、寂しさに馴染んで口を噤めば、不意に向こうから現れてこちらを覗き込む。卑屈に構えれば斟酌なく怒るくせに、甘えかかれば蹴り倒すくせに。情けないから見られたくない顔をばかり覗き込んでは"しょうがないか"と構ってくれる。
"これも、我儘勝手の1つなんだろうね。"
それとも、もしかして不器用さの現れだろうか? ………まさかね。だって彼は、冷酷で冷淡で、強気で傲慢で。それからそれから、究極の合理主義者で。強かな人性なればこそ維持するのが可能な、それらの気性を無理なく備えている人だったから。最初は…ホントはあまりの鮮烈さにむしろ辟易して、眉を顰めたものだったけれど。実はその時から、もう惹かれてたんだと思う。誰へも均等に、広く遍あまねく好かれていなければならない存在でいるようにとされて来た身には、誰にもおもねらないままに、挑発的で奔放で強かな彼がどれほど眩しかったことか。
"羨ましかった、のかな?"
いつだって悠然と構えてた孤高の人で、その延長かあんまり他人を頼らない。信用されるのもウザイのか、合鍵を渡そうとしたら、
『金目のものとか、勝手に持ってくかも知れないぜ?』
反発するよに、心にもないことを言い出したりもした。いつだって距離を置き、少しも甘えてくれなくて。たまに人を試すようなことを言っては、やっぱり片意地張って独りでいる。そんなところがますます…気位が高くて、気ままなそのくせ、人一倍"人間不信"だった、あの黒猫のクロみたいだって思ったよ。昔"飼ってた"というのは正確じゃなくて、他にも構ってくれる家のある"通い"の野良猫だったんだけど。そんなせいか、道すがらに出会ったときは全然愛想を向けてもくれない。今は誰のものでもないのだよと、そんな素振りでツンとしてた。怪我をしていても傍には寄せず、傷めた足を引き引き たったか逃げてく意地っ張りだったクロ。さぞ困っているのだろうにと、どんなにもどかしく思っても、伸べた手を撥ねつけるばかりで頼ってくれず。それでも我慢して手を差し伸べ続けて、やっと懐いて凭れてくれた時ってどんなに嬉しかったか判る?
"野良猫なんぞと一緒にするなって、きっと怒り出すに違いないから。"
だから…本人には言えない内緒の話。腕の中、静かな寝息を立て始めた意地っ張りな人へ、そぉっとお願いしてみる、なんとも健気なアイドルさんである。
――― 今だけでいいから。
凭れてくれてるんだよねって、少しだけ自惚れさせてね。
〜Fine〜 04.7.22.
*九条様からいただきました作品へ、拙いながらもお話をくっつけてみました。
ウチのノーマルVer.の桜庭くんは、ルイさんに通じるところがあると思います。

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